マクドナルドのポテトが好きだ。揚げたてを食べたいから、ポテトがどんどん揚がっているお昼時に行くぞと思うのだが、混んでるのはやっぱり嫌だなとかぐずぐずしているうちに昼を過ぎることも多い。
だいたい店内は一段落し、落ち着いた時間だ。店員同士が話し込んでいたりする。その日は、奥のボックス席に座っていると背後からなにやら深刻そうな会話が聞こえてきた。露骨に振り向くわけにいかないから詳しくはわからないが、本部の人間が視察にやってきて、店長にダメ出ししているようである。
「店に入った瞬間、ツンとした臭いがするんですよね」
本部の指摘に女性の店長が委縮している。うんうん、自分の店が臭いと言われてはツライよね、としっかり聴き耳をたてる。
というか、そんな店でポテト食べてて大丈夫か、私。自分の身も不安になってきたが、同時に私の行きつけであり、地元で唯一のハイカラの象徴であるこのマックが都会から来た人間に貶されることにふつふつと怒りが沸いてきた。
都会人め、我が町のマックをバカにするな、田舎にあろうが都会にあろうが同じM。マックではないか。このマックを差別するのか。そもそもチェーン店だろうに。このマックを思うあまり感情移入がエスカレートしてきた。本部の男性はこう言った。
「でも、こちらの店舗はお子様の来店が多いので、そのせいかもしれませんね」
本部はフォローをした。 へ?
「臭いを消すために使った消臭剤や洗剤のにおいでしょうね」
責めてない。それどころか子どもへの気配りをねぎらっている。店長がほっとしているのがわかった。そうか。本部の都会人は私の店をバカにしてはいなかったのだ。(私の店ではない)この都会人、案外良い人なのかもしれない。私はポテトの続きを食べた。
このように客側のスペースに本来いないはずのM側の(店側の)人間が座っているのは落ち着かないものだ。別の店舗では、カウンターの客席で店長らしき男性が女性の店員の横に座り、厳しい顔でシフトについて追及していたし、また違う店舗では店長が店のど真ん中の客席で女子高生のアルバイトを面接しているの見かけた。(別にいいけど)この子は受かったみたい。よかったね!(なんの話だっけ???)
いずれにせよ、私がマクドナルドがすいている時間に食べに行くせいで、いつもの店の姿とはズレた場面に出くわしてしまう。落ち着かない。
いっそポテトのことだけ考えていたい。そんな私にとって年に数回訪れる「ポテト全サイズ150円で買える」期間はまさにフェスティバル、カーニバルである。心がソワソワ、ふわふわし、いてもたってもいられなくなる。なんなら目の焦点もあってない気がする。だから本音では揚げたてのLサイズだけを買いたい。しかし大の大人がそれだけを注文して帰るのは気後れしてしまい、いつもセット買いをするという虚勢をはって生きていた。。
そんな時、「ポテト150円期間中」のある昼下がり。中年の母娘と思われる2人がLサイズをひとつだけ頼んでいる衝撃的な場面に遭遇してしまった。二人はボックス席に向かい合って座り、大きなトレーにただ1つのったLサイズポテトを一本一本静かに食べていたのだ。ゆっくりとポテトに手をのばすさまは、さながら焚火にでもあたっているかのようだ。神々しい。まるで西洋の宗教画である。二人はポテトを食べ終わるとすぅっと店を出て行った。本当にポテトだけを食しにここに来たのだ。
私は自分の手元のセットを見た。空腹でもないのにビッグマックまで食べようとする自分の卑しさよ。自分の弱さが痛い。そして教えを心に刻んだ。ポテトはLだけを頼んでもいいのだ、と。この出来事は私の心に刻まれた。
って、その後もまだLサイズだけ頼んだことはないけど。(おおお)
マクドナルドって誰にでも「マックの思い出」があるんじゃないだろうか。すごい店だよ、マックは。
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