フィリピン人のおばちゃんとバイトしたあの冬が素敵な想い出になってしまった件

フィリピン人

冬の短期の工場バイト、現場には大勢の人がいた。働くようになってまだ間もない私は緊張とあせりで、同僚の顔や名前を覚える余裕はなく、それよりもまずは作業を覚えることが先だとそちらに集中力を使おうと思っていた。そんなスイッチをオフっていた頃でも、休憩場所でどこか離れたレーンで、いつもどこからか聴こえてくる怒鳴り声のような大きな声の存在に気づいてはいた。それは中国人かフィリピン人特有の、といっていいいのか、まくしたてるような、控えめな日本人からはちょっと浮いてしまう大ボリュームだった。

いつしか作業を覚え、現場の雰囲気がわかるようになった頃、どうやらそれはフィリピン人の黒髪のおばちゃんの話声だとわかった。女性は小柄で、ぱっちりした目をした美人で、いつもしっかり化粧をしていた。8時から18時まで週5でフルに働き、何より仕事熱心だった。

この勤勉さからなのかは不明だが、リーダと仲が良かったMさんがある日、私の1日研修担当になったのだ。それまで外国人の方と一緒に仕事をしたことがなかった私はドキドキした。正直、ビクビクと怯えていたといったほうがいい。言葉が通じるのか。日本語っぽい話し声を聴いたことがあったが、何人かいる他のフィリピン人の女性たちとは日本語以外の言葉で話しているのを知っていたからだ。意思疎通ができなかったら、仕事が覚えられないず翌日から途方に暮れることになる。もしミスをしたら、大声で怒鳴られるかもしれない。勝手なイメージだが、それまでは目が合っただけで難癖をつけられそうで、できるだけMさんの方は見ないようにしていたのだ。触らぬ神に祟りなし。それがついにこの日が来てしまったのだ。なぜに急にマンツーマン指導なのか。

怯えきった私は熱心に話を聴くことで、敵ではないですよという姿勢を見せることにした。もう逃げられないし、機械の操作はしっかり教わらないと難しそうだった。構えに構えながら真剣にMさんの目を聴き、やたら大きく頷くオーバーリアクションで指導を受けた。このやりとりを通して、Mさんが日本語を使いこなしていて、何ら意思疎通に問題ないことがわかった。ちょっと複雑な作業の質問をしても普通に教えてくれる。発音はカタコトっぽくはあるが、不思議なもので慣れてしまうと全然気にならない。「日本人と話してるみたいだな」やがて私はMさんとの会話で言葉への不安はまったくなくなり、普通に日本人の同僚と話すような感じでやりとりするようになった。Mさんの方は最初から私に気兼ねすることなく、ガンガン指導していたのだが。私の人生でこんなにもフィリピン人の方と話したのは初めてだ。ものすごく貴重な体験をしているという実感がでてきた。

そうなってくると、もう友達感覚なのだろうか。この日以降、何かと話しかけてくれるようになった。まだ私は警戒していたが、Mさんの距離の詰め方は早かった。

休憩室で私が弁当を食べていると、後ろからMさんの声が聞こえてきた。(広い部屋だが、すぐわかる)ちょっと面倒だなと思って、気づかないフリをして顔を動かさず、前を向いて食事に集中しているフリをする。が、私の隣には電子レンジがあり、Mさんがそのスイッチを入れた気配がした。(でも私は振り向かない)どうか気づかれませんように。温めが終わった音がする。Mさんが中のものを取り出す、気配がする。「あーーちっ!!」Mさんが容器から手を放し、バンっと軽く音がした。その瞬間、とっさに私はMさんの方を見てしまった。目が合った。ジップロックのタッパーに入れた白いごはんを温めていた、のがわかった。Mさんは私の方を見て、「ニカッ」と笑った。そして行ってしまった。見なきゃよかった。

 

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